危険な年ごろ、それは青春真っただ中のティーンエージャーの事ではなく、いい年こいて残るキャリアは下手すると下り坂しかない事を指しています。40過ぎ日本サラリーマンの惨状をネタにしたYoutubeを何年も前に初めて見ました。その時感じたのがアメリカ、そして当然ウォール街でも同じ様な恐ろしい状況があり、日本もそうなったか・・・と思いました。
そもそも終身雇用は先ずアメリカで崩れたもの。今回はそう言ったいい年こいた親父の苦難をいくつか綴ります。因みにウォール街で働く女性というテーマは、親父ネタよりも大変大きな話題と考えており、それは別の機会に大きく扱います。(バリキャリが気になる方々お楽しみに)
メガバンクグローバルプロジェクトマネジャー、ウォーレン
あるメガバンクに転職して、早速会社ぐるみの巨大プロジェクトグループに配属されました。
どれほど巨大だったかと言えば、予算が百億円以上のグローバルプロジェクト、何百人という社員とコンサルタントを巻き込んだもの。そのプロジェクトを仕切るナンバーツーの立場のエグゼクティブがウォーレン(敬称略)でした。
偶然のタイミングでしたが、配属後まもなくそのプロジェクト立ち上げの為に、世界中から数多くのマネージャーをニューヨーク本社にかき集め、一週間に渡るワークショップが開催されました。ワークショップとはグループで様々な意見を言い合い何らかの解決策やプランを打ち立てるのが目的であり、例えば既に決まった事柄を上から説明する会議と比べると、スタート時点では結論が未定であり失敗する場合もあります。
そのワークショップの場所は40階の実に見晴らしのいい所で朝食もランチも出るわで、Junも一応それに参加したわけですが、いつもわくわく感がありました。その全てを仕切っていたのがウォーレンともう一人スティーブでした。
この緑色のタワー最上階でワークショップは開催された(Jun撮影)

ワークショップとは言え、会場には世界中から集まった百人以上のマネージャーが同席しています。そしてその会議を一週間に渡って仕切ったウォーレンとスティーブの腕はそれは見事なものでした。大勢の人達を前に、この二人のエグゼクティブのやり取りは、何故かもの凄い達者な漫才師を感じるものさえありました。
その一週間に渡るワークショップ、世界中からマネージャーを呼び寄せての事だったのですが、いくら経費が掛かったのか、という単純な疑問が湧きました。イギリスから特に多くの人が来ていましたが、飛行機は当然ビジネスクラス、ホテルもNYCの一流、一週間で一人百万円では全然足りなかった筈です。そしてそれが10人ばかりではなかったわけ。そう考えるとこの一週間のワークショップを開催するだけで単純に何千万円では収まらないであろう経費がかかっていた事になります。
当時ズームたるものが存在せず、またビデオ会議すらあまり使われない時代でした。そういった点では実際に人が集まってのワークショップは上手くやれば意義があるものだったでしょう。しかし予想される膨大なコスト、いやメガバンクならそれぐらいの経費はどうって事ない、という扱いだったのです。
誤算
そういった実に懐の深いメガバンクでのワークショップを成功させたウォーレン、当時60歳前後のいい親父(爺さんという風貌)でした。後で聞いた話ですが、彼はその勤め先のメガバンクの株を沢山授与されており、プロジェクトはまだ続いていましたがリタイアを決意されました。
推定何億円、いや多分10億をこえていたかもしれない程のリタイア資金を抱えていた彼でしたが、別荘もカルフォルニア州のレイクタホに所持していたとのこと。もう優雅な老後が現実的に見えて来たのです。
因みにアメリカでは日本のような定年制度がなく、年齢による制限は差別扱いになります。よって元気な人は65過ぎても正社員のままで働く人は全然います。
レイクタホといえばサンフランシスコから車で4時間かからない高級リゾート地

ところがです。ウォーレンリタイア後、間もなくあのサブプライム危機となり一気に彼のハッピーリタイアメントプランは吹っ飛びました。実はその老後資金ですが、なんとほぼ全てが勤め先メガバンクの株だったの事。ギリギリ潰れはしなかったものの・・・株価はリタイアした時の高値と比べ数十分の一にまでに暴落。
例えば10億円の資金があったとしましょう。しかしその数十分の一となれば数千万円です。これはこれで大金ですが、別荘も抱えていて物価の高いアメリカでは全く老後をやり抜くのが無理なのは確実。リーマンブラザーズやベアスターンで老後積み立てを自社株でしていた人達も老後資金が同様に殆ど皆無となったのです。
リスク管理上、どうしてリタイア時に一つの会社の株にすべてを賭けていたのかは疑問ですが、いずれにせよ後の祭りです。
そのようないかにも愚かなリスク集中投資をしていたのは何故でしょうか。勤め先の銀行のバランスシートが年々巨大化しているのが当たり前、そして何億とプロジェクトに使おうが一向にお構いなし、どちらかといえばそれもビッグな方がいい。Junが一瞬思った莫大な経費への疑問とかそう思う方がその会社ではおかしいぐらいと皆神経がマヒしていたのです。それこそ彼もそのメガバンクの株価とバランスシートは永遠と右上がりだとしか思っていなかったのでしょう。
しかし現実の大暴落、そして彼はある意味勇敢な決断をしました。
食えないプライドよりも大事なもの
実はそういった彼のリタイア後のとんでもなくなった話は直接彼から聞きました。それも面接の時にです。そう、なんとJunの部下になるべくとぼとぼと彼はやって来たのでした。
事の成り行きは前述のように、一社株に老後資金のほぼ全額を賭けていたお陰で、急遽再就職をやむなく決定(と言うよりそうしなければやりくり不可能な状況)。つい先日までメガバンクでグローバルプロジェクトをリードするカッコいい役をし、数多くの社員から惜しまれながら悠々とリタイヤ。と思いきや再び現役に復活する羽目に。
彼は先ず仕事探しにおいて、手当たり次第に様々なリクルーターなりヘッドハンターなりありとあらゆる所へ履歴書(レジメ)を送ったそうです。しかしどこにどうコンタクトをとっても返事は全く皆無だったの事。Junの部下になるべく私のオフィスへ面接に来たウォーレンは語りかけました。「あのーJunさんよ、私のレジメを見れば誰にでも直ぐ高齢者なのが明らか。こんないい老いぼれを雇ってくれる会社はもうない。全く返事がないのだよ。だから恥を忍んでまた古巣のここにどんな仕事でもいいからやらせていただきたくこう頭を下げているのです。」と言われました(当たり前ですが英語で言われましたし録音から翻訳したわけではなく記憶から大体こういう会話だったと復元しています)。
因みにレジメですが書式というのは無く基本自由に職歴学歴を自己紹介するものです。最低限名前、学歴、そして現在の仕事か無職の時は最後にやった仕事を記すのが常識です。生年月日、国籍、家庭のあるなしなどは全く書く必要が無く、また職歴もすべて書かないのも十分ありです。ウォーレンの場合は大卒後同じ会社に数十年いたわけで、その一行を見ただけで大学卒業年が省いてあっても60過ぎぐらいと直ぐ判断されてしまいます。
予想ですが一度リタイアした古巣には取り合えずは戻りたくなかったのでしょう。しかし仕事の宛が皆無である状況を思い知らされ、それこそ恥を忍んで彼は元上司に連絡。ウォーレンの元上司はかつてCIAに働いていたという噂の女性シャリルで、かなりのエグゼクティブクラスでした。オフィスもエグゼクティブフロアにあり、また会社のプライベートジェットにも乗っていたとか。そんな彼女でもサブプライム以降の状況で新たな社員を雇うのは不可能な状態でした。しかしウォーレンの事を思い、無理やりなんとか派遣社員枠を大した給料でもなく一つ作り、何故かJunの部下として雇う方向となりました。
かつてあのワークショップを実に格好よくリードした彼が、それはもうこれが最後のチャンスと言わんばかりに喜んでJunの部下にならせて下さいと、淡々と語る中にも深い重みを感じなくてはいられない状況。こちらとしてはあの彼がそれこそぺこぺこ頭を下げるかのように頼み込んでいる状況(アメリカでは日本でありがちな頭を下げるというのはおよそありません)。正直申し訳ないぐらいに思いました。
何はともあれ人員は欲しかったし、しかもあの怒らせるととんでもない恐ろしいという噂のシャリルから頼まれた件、ウォーレンには好感を抱いていた事もあり採用決定となりました。
彼はまるで新卒を雇ったかのように何でも進んでどんな下っ端の仕事でも率先してやってくれました。Junより遥かに年上だというのが一目瞭然。それよりかつてはグローバルプロジェクトをリードするエグゼクティブだったのに泣く泣く戻ってきてJunの部下に。プライドの高過ぎる人には絶対できない事だったでしょう。しかし彼はそんな事を言ってもいられず、真面目にチームJunの小僧を他のチームJunの人達と席を並べて働いてくれました。
2年ほどだったでしょうか、景気も落ち着き彼は晴れて社員として正式採用されました。しかし当然かつてのランクよりは何段も落ちていました。
あのような彼の姿を毎日見て変な話ですが、ちょっと感動すると共に明日は我が身、いや、明日というより10年20年先は自分の順番かもしれない、としっかりと言い聞かせました。それと更に現実的な話、自分の勤める会社に多大な老後資金をかき集めるのはやはりとんでもなく危険だと。
ところでどうでもいい事ですが、彼には実に面白い事を二つ言われました。「Junさん、あんたは普段紳士的に受け答えするけれど、阿呆な奴が何か言ってきた際には三言目ぐらいにはコテンパンにそいつがいかに馬鹿者かを本人に分からせる皮肉いっぱいに言い返す才能がある。」もう一つは「この会社は上に行く程ちゃらんぽらんであんた(Jun)より全然わかっちょらん連中が経営している。」と言われました。
今はJunのところでちょこまかやっていますが、かつてグローバルプロジェクトマネージャーとして活躍していた彼のそういった言葉には重みがありました。今現在ぱっと見は派遣社員の老いぼれ親父ですが、実は優れもので洞察力も人一倍深いものがある。
そういえばかつての職場でとある人、孫がいそうないい歳こいたおやじでしたが、ある時彼の履歴を聞いて驚きました。今は無き伝説のエリート航空、パンナムのファーストクラスで世界中を飛び回る弁護士であったと。でそのようなトンでもクラスの人が何故今はエクセルマクロディベロッパー派遣社員をやっているのか?とまさに不思議な状況でした。しかし思い起こせばその彼も随分と深い事を時々いう人だったのです。
一瞬窓際族かしがない派遣社員で、若いやつの小僧をちみちみやっているご老体、と思いきや実はかつてとんでもない仕事をこなしていた出来るやつだったと。しかし何らかの理由であっという間に頂点に近い所にいた会社社会の表舞台から転げ落ちたのでした。
ただ一緒に仕事をしてみたり話してみると、随分と鋭くファイナンス等ではなく人としての賢さとでも言いましょうか、そういうところでの読みの深さに驚かされてしまいます。人は見かけによらないものです。
そういえばあのスティーブは?
ウォーレンと組んでいたスティーブですが、彼は運が良く、さっさとリタイヤする事なく、お陰でサブプライム危機も乗り越えました。その後更にプロモーションされ稼ぎまくりました。ウォーレンといえば格下げ社員にいずれはなるものの、相変わらずJunの部下で小僧をしている中、スティーブは悠々とリタイアを決定。
ウォーレンとスティーブという漫才コンビ、解散後はビートたけしときよしのような差を感じるぐらいでした。
とその三年後突然悲報が届きました。なんと一年半闘病の末癌で死亡。リタイア後最初の一年半はゴルフ三昧で正に老後を楽しんでいたとのこと。そして発病、随分と苦しい闘病生活を一年半にも渡り続けるもダウン。会社で一緒に仕事をした皆でお通やに行きましたが、その棺桶に顔が見えるように作ってある窓ですが、花が沢山置かれてありメッセージは明らか、誰にもその素顔を見て欲しくない、という状況だったのです。噂では、見ない方がいいというくらい、風貌があり得ないほど変化していたとのこと。
莫大な膨れ上がるバランスシートのメガバンク、その元で一時はプロジェクト予算にはあたかも制限がないかのような経費の使い方をしていました。そしてそのプロジェクトをリードした一流漫才コンビ。そういえば実際ジョークも上手な二人でした。そこがアメリカのエグゼクティブらしい。相棒の一人は早くリタイアして積み立て財産を失いのこのこ再就職、しかも罰ゲームではないですがJunの部下。もう一人は会社で生き残り更にランクアップした後リタイア、しかしあっという間に死去。屈辱的な再就職ではあったでしょうが、取り合えずウォーレンは二度目のリタイアをしてあの漫才コンビの会社人間人生は終了しました。
Karoshi
過労死は日本人サラリーマンを代表する言葉として、英語圏内では”karoshi”という単語でビジネス用語の一部としておよそ認識されています。その言葉が輸入される事からも分かる様に、アメリカそしてウォール街でもそのような死因は珍しく、言葉として発展しなかったと考えられます。
しかしごくたまにですがそういったニュースもあります。とは言え間近にそれを目のあたりにするとは思ってもいませんでした。
転職の多過ぎるJunですが、かつての同僚からしつこく2年以上に渡って戻ってきてくれ~と延々と言われ続けてました。当時所属していた会社の経営危機をなんとなくかぎつけた事もあり、またもや転職となりました。因みにその経営危機疑問の会社は、Jun退職3年後にウォール街を賑わすスキャンダルがニュースとなり社長交代劇、そして数年後ライバルに吸収され姿を消しました。
新たな仕事についてまず任された事の一つが面接では全く聞いていない内容でした。チームの中年薄禿おやじラウル、最近体調が悪くあまり無理をしない方がいいという事で、その彼の仕事も一部やる羽目になってしまいました。正直いきなり気分を壊す事でしたが、取り合えず新たなキャリア開始となりました。
実際仕事が始まって気付いたのが、ラウルはあまり対して仕事をそもそもしていなかった、またその作られた資料の質が低い事が明らかでした。お陰で押し付けられた仕事ではありましたが難なくこなせました。結果全体的に仕事は進みそしてラウルもすっかり復帰し、毎日出社できるまでとなりました。
彼にはいい歳頃の娘さんがいました。一度会社を訪れて来た事がありましたが、とんでもない美人のお嬢さんでした(とそう思ったのを言わなかったのは何故か、エピソード#9「今どきリベラルウォール街」参照)。ラウル自身はどこにでもいそうなただのおっさん、という風貌だった事もあり変に印象深かった覚えがあります。とりあえず仕事はぱっとせず、しかし家では幸せなお父ちゃんか、と勝手に想像しました。
それは突然やってくる
ある日何かしら用があり早引きしました。そして次の日いつものように出社したら皆さんの雰囲気が明らかに普段と違う。話を聞くとなんと前日Junが早引きした後夕方五時ごろ、あのラウルが突然ぶっ倒れ、その勢いで頭を机に打ち付け周りは血だらけに。救急車が駆け付け即入院。彼のデスクには血痕のかけらもなくきれいに掃除されていましたが、それはもうとんでもない大騒ぎだったそうです。
この建物の35階でぶっ倒れたラウル。偶然ですがウォーレン率いるワークショップが開催されたのもこのビル(Jun撮影)

すっかり元に戻っていたかのようでしたが、実は全然そうではなかったわけです。
彼とは何年か前に仕事をした事があり、確かについ先日回復したとは言え、少しスローな印象は受けていました。ただ医者にも平常営業(出社)が認められており、いきなりぶっ倒れたというのは衝撃的でした。パッと見た目では分からないところで体は蝕まれていたのでしょう。彼が入院してそういえばあの娘さんにしろ奥さんにしろ将来大丈夫か?などと心配になりました。
因みにグループのマネージャーをしていた人なんですが、彼は自分と同じ国出身の人にはとんでもない仕打ちをする事で有名でした。人種のるつぼといわれるアメリカしかもニューヨーク、しかしそこでは同じ出身の村人内でのコケおろしあいが珍しくないのです。
そのブラックマネージャーですが、ある時はその同じ国出身である社員のビザ関連をほったらかしにしており、ビザの有効期限が切れてしまった暁には、社員がその家族も巻き込んで本国に帰る羽目になってしまいました。また普段はラウル以外にも週末返上を常に要求してみたりとか。M&Aでもやっているわけでもなくそういった毎週末返上はありえない劣悪環境でした。そう、自分と出身国が同じ連中には特にブラックな上司だったわけです。後進国(彼の出身国)から先進国(アメリカ)へ奴隷を売り飛ばしその奴隷達を率先してこき使う「スレーブマスター」なるあだ名までついた人でした。
再び闘病生活
会社というのは当たり前ですが社員が一人突然ぶっ倒れてもその分を周りが余計に仕事をする羽目になり運営していかなければいけません。当然世の中そういう面倒な事情は知ったこっちゃないわけです。Junにしてみたら仕事を始めていきなりラウルの仕事まで任されそれが一段落したかと思ったら彼の入院のお陰で再び戻ってきた、と言うわけです。しかしついこないだまでやりこなした事であり、そういった意味ではあまり苦ではありませんでした。それよりも本気で彼の事が心配でした。
ブラックな上司ともう一人マネージャーは週に一度ぐらいはラウルの入院先に通うようになりました。しかし通うとはいえ彼に意識はなくそれはまるでまだ生きているかどうかの確認という事にさえ見えました。しかしながらある日ラウルは目を覚ます事になりました。
聞くところによると、一応会話はできるもののそれこそ痴呆かアルツハイマーか、何らかの脳障害の後遺症が明らかだったとのこと。話の流れというのが全くなく、言葉は喋るも脈絡のないハチャメチャだったとの事です。
そういった生々しい事が身近に起こった経験のないJunとしては衝撃的でした。一応生きてはいるものの、脳みそ何分の一ぐらい無くなったかのような状態。
その傍ら悪い噂が立ち始めました。そもそも普段はスレーブマスターとして同じ国出身の社員は人権無い扱いをしていたのに、いざ人がぶっ倒れると一生懸命病院通いをしている。一瞬実はいい人だったのか、とさえ言われました。しかしそれはひょっとしてただ訴えられるのが怖くてまずは彼の意識の様子を探りながら自分に不利な状況にならないよう色々吹き込んでいるのではということでした。
その時まだラウルは生きてはいましたが、ぶっ倒れて頭から血を出し意識がなくなり入院、それが過労のせいだというのは疑いようのないこと。だったらさっさと会社を訴えてありがちな何億という賠償金を取りあえずもらっておけばいいのでは、と思われました。しかしそういった訴訟に持ち込むなどの話はありませんでした。あの時もし会社そしてそのブラック上司を訴えたら証言台に立ったであろう社員は十分いたかもしれません。会社に不利な法廷発言を社員がするのはハードル高いですが、しかしぶっ倒れて頭から血を出したラフールを目撃した同僚達は、基本皆劣悪な労働を日頃から要求されていたのです。そう考えると勇気を振り絞って証言した人はいた筈。しかし肝心な被害者であるラフール本人や家族は何もしないのでした。
数か月後、残念ながらラウルは退院する事なくこの世を去りました。葬式にはフロリダからもわざわざ元同僚が来ていました。普段仕事に忙しく意識も戻ったと言う事で、わざわざ病院見舞いにJunは行く事がありませんでした。しかしこれまた突然にこの世を去ってしまったというニュースに悲しみと共に怒りを感じずにはいられませんでした。
結局家族はお父さんがいなくなりおよそ何の賠償もなくそれでおしまいだったのです。やはり言いくるめられていたのか?今となっては真実はあのブラックマネージャーしか知らないところです。
ここで改めて考えてみると、過労死とまではいかなくても仕事が原因で体を壊す、最悪死亡、というのは特に歳をとってからだと更に悲惨な場合が多いような気がしました。それは単純に被害が自分一人だけでなく家族持ちならば、その家族全員に多大な影響を与えてしまうからです。
家族というものはおよそ一家の収入に合った生活レベルと言うのを築いていて、その収入源の一つ、ひょっとしたら唯一、がなくなるととんでもない経済的危機に陥りかねません。少なくとも一気に思い切り切り詰めた生活をおよそ何年も、あるいはその後一生する羽目にもなりかねません。
因みにその部署にいた何人かは、会社が発行している任意の障害者保険に加入しました。それは生きていても仕事ができなくなってしまった場合などに適応されるものです。ぶっ倒れて半身不随になっても生きていたら生命保険は適用されません。しかし仕事ができないと収入はなくなりただ金食い虫が生き残るだけとなります。その様な時に、掛け金によりますが、給料の何割から最高何倍までがもらえる、というようなものです。血を吹いて入院、言語障害となりそして死亡、それを目の当たりにしてしまったら恐ろしくなったのも当然でしょう。
数あるブラックマネージャー、その中で実際に過労死者が出るのは極僅かな筈。そしてその僅かな過労死者の中から、更に訴えてかつその訴訟勝利にまで追い込められるケースは、皆無でないにしろ微々たるもの。そう考えればブラックマネージャーというのは残念ながらリスクの割とは実にリターンのいい商売という事になってしまいます。それは政治家への賄賂を投資と考えた場合の異常に高いリターンとおよそ同じ残念な社会悪構造です。そのように考察したJunは、取り合えずその様な使い捨て駒にはならぬよう身を守らねば、としみじみ思いました。
ラウルは倒れてそのまま即死亡したのではなかったからこそニュースにもならなかったのでしょう。そういった意味でスレーブマスターマネジャーと会社は悪運が実に良かったのです。結局ラウルと彼の家族が損してお仕舞いでした。
中年リストラ
ウォール街は景気が良くも悪くも常にリストラの可能性があります。有名なのはやはりゴールドマンサックス。毎年パフォーマンス評価の低い社員を数パーセント解雇しています。他にも同様な経営方針を貫く会社はいくつもありますが、低評価の社員を解雇するのは、単純に考えれば資本主義社会ではそうあるべき事柄なのです。
しかしながら、時折会社の経営難、あるいは世の中の不景気などにより、突然の大型リストラが行われる事も度々あります。そのような緊急事態においては、最悪、パフォーマンス評価に関係なく解雇人員を選ぶ場合が十分あるように見受けられます。
Junの働いていたとあるメガバンク、景気の悪い時でしたが、ある日それは何の前兆もなくやってきました。仕事を一緒にしていたとあるエグゼクティブ、彼は会社のCFOの為に毎月の収支などを纏める役の人でした。彼といつものように電話で何かしら話をしていたら「あのーJunさん、今ボスから電話かかってきてるからまた後で」と言われ慌てて電話を切りました。そういったいきさつで電話を切るは別に何でもない日常茶飯事でした。
そして数日後でしたか、その電話を突然切った彼からメールが来ました。しかしプライベートのメールアカウントからでした。何かと思いきや、なんとあの上司から電話があり慌ててJunとの会話を中断したのですが、彼は呼び出しを食らったとのこと。そしてなんと突然の解雇を言い渡され即刻荷物を纏めて会社の外に出てそれでもうお仕舞い、となったのでした。
あの様な、随分会社の高い位置にいた人もあっという間に放り出され、そしてこれまたありがちなその後はぱっとしない仕事探しに苦労の苦労。確か適当な派遣社員を少しだけやりさっさとリタイア。彼はもう何時リタイアしてもいい歳だったので、そういった意味ではまだ悪い方ではなかったのかもしれませんが・・・まるで強制早期退職のようなものでした。
中年リストラその2
その時実は彼以外にも犠牲になってしまった同僚はいました。そういえばその犠牲者、大体が50前後の親父だらけ。会社で一斉にリストラがあったのですが、まず自分は生き残れた事に取り合えず安堵。で冷静に考えてみたら解雇された人の多くがそういった50前後の親父、女性も確かいましたが、若い世代でリストラにあった人は誰も聞きませんでした。
ポールはブルックリン生まれ育ちでいかにも、と言うそういったアクセントのある人でした。イタリアンマフィアではありませんが、少しそんなどすを感じさせるようなところもありました。親分肌で部下はもの凄く大事にして、不条理な事に対しては勇敢に立ち向かう態度も多々見られる関心するマネージャーでした。Junは彼とそのチームとはいつも一緒に仕事をして仲良くやっていました。
彼は因みに柴犬を飼っていました。NYでは柴犬実に人気があります。その柴犬なんですが写真を見せてもらったら黒毛なんです。なのでこれはちょっと本筋ではないというような事を言ったら憤慨していました。それでJunは柴犬の写真を見付け、この毛色こそが正式なものだとわざわざ言っておきました。くだらない事ですが、こういった普段のどうでもいい会話はやはり仕事の上でも色々と円滑に行う為には大事な事だと考えています。
南禅寺で撮影した柴犬、このような写真をポールに見せました

そのポールはことあるごとに「俺はこの会社に毎日来てとりあえず家の借金の返済、毎日の生活費を稼ぎ、それが続く事を願いやっているんだ」と口癖のように言っていました。彼は人としてまともであり部下思い、また一番肝心な仕事ができる人でした。あのウォーレンが率いるプロジェクトでも重要な役をエキスパートとして任されていました。
しかし彼もまんまと運の悪い枠に陥ってしまいました。確か子供がちょうど大学行くか行かないぐらいだった筈。しかしそんなこと会社は知った事ではありません。口癖にしていたローン返済も当然がっぽり残っていた筈です。
彼は先ずは外で仕事探しをしましたがやはり無理。そして実に変な事と思えるでしょうが、なんとウォーレンじゃありませんがリストラにあった会社にまもなく派遣社員として戻ってきたのです。
何が起こったかといえば基本コストカットの為に大量解雇、その中にポールの名が。しかし一度首にしたはいいけど実際あまりにリストラし過ぎて仕事にならない。それで解雇された人員の中から一部派遣社員と言う形でコスト的には結局抑えた形で人材投入、となったのです。
経営側からすれば単純に上手いことコストダウンしながら仕事の進み具合にはさほど影響を与えなかった、総括的には経営上実にいい事をした、となったわけです。とんでもない話ですがこういった傾向は、見渡せば実に数多い事と気付きました。
中年リストラその3
別の犠牲者の一人マイク、彼は大学卒業後ずっと同じ銀行(のち合併を繰り返しメガバンク)に勤めていました。いつもスマイルをしている憎めないやつ的な存在。また変な話ですが、ハイウェイだらけのアメリカ、誰しもが一度はスピード違反で捕まった経験がありますが、彼は一度もそれさえもないと。彼のクソ真面目さというか慎重さがよく分かる話です。結婚もしていて双子の子供がいてまた誰からもいい人判定され、会社には敵もいなく単純に幸せに順調にやっている感じの人でした。
が残酷なことにどういう訳かその彼も犠牲者となりました。。エピソード#9「今どきリベラルウォール街」で説明しましたが、キャリアSNS、LinkedInのプロファイルはそのリストラ後アップデートされる事がないままが何年も続きました。それはつまり解雇されて仕事が見つからない状態が長く続いていると言う事でした。
しかし彼もなんとポール同様、結局リストラされた会社に派遣社員として、当然かなり抑えられた給料で戻ってきたのでした。流石にもう何でもいいから仕事する、という状態だった事が容易に想像されました。
彼はいうなれば日本語Youtubeでいくつも観た中年リストラの危機に面したサラリーマンに一番よく似ているタイプ。真面目に同じ会社一筋で波風立てずしかも嫌味なところがない実にいい人で幸せそうな家庭持ち。そして突然の解雇でそのあとがおよそない。
リストラタイムカプセル
これらのリストラとは別でしたが、同じフロアにいた女性で犠牲になったとある例を挙げましょう。ことが起きたのは一月の半ばでした。一月といえばウォール街では誰しもがいくらボーナスがもらえるか大変楽しみにしている月でもあります(エピソード#3,「アメリカ、そしてウォール街のお正月」参照)。そしてあの時は会社の合併などがあり、年末年始の数字まとめが例年になく大変忙しくなってしまった状況でした。多くの人が正月休みを返上して大晦日も元旦も働きました。そして年明け一月二週目ぐらいでしたか、年末の数字が取り合えず全て揃い、プレスリリースも準備が終わった直後でした。例年になく猛烈に仕事をした多くの人達が解雇を言い渡されたのです。
ボーナスが目の前でそれこそ言わずともそれをちらつかされ、いつもより思いきり仕事をこなしそれはさぞかしがっぽり、とまではいかなくてもいいもの出してくれるだろう、と誰しも思いきや、いきなり首です。犠牲者の一人がとある女性マネジャー。オフィスにある個人所有の物等を片づける事なくそのまま放置して会社のビルから立ち去りました。聞いたところによるとその彼女はあまりにも腹が立って部屋を片付けるどころではなかったとのこと。
そしてその彼女のいたオフィスはその後何か月にも渡りそのまま放置されました。考えてみればリストラで人員が多く減った後にさっさとそこに人が入るわけでもなかったのでしょう。丁度そのオフィスは男子トイレに行くときには必ずその前を通る位置にありました。当然ですがいつそこを通っても全く景色の変わらない、かつ誰もいない空間がそのまま放置され続けていました。それはあの正月返上させてこき使われた後に突然首を宣告された時のそのままだったのです。
大げさな言い方をすれば、8時15分を指している広島の時計のようなものです。そのタイムカプセルと化した彼女のオフィス、目の前を一日数回通る度、毎日思い知らされました。凍り付いた全く同じ景色が静かに語りかけるようでさえありました。散々ボーナスをちらつかされいつも以上にこき使われしかし報酬なくポイ捨てが現実にあると。
こういったボーナスをも含めたダメージは、やはり高収入者である程とんでもありません。ボーナスで住宅ローンの返済をガーンとしようとか子供の大学授業料に充てる、車を買う、などいい歳こいてるとそういった大きな買い物や返済への資金となります。
若い時はおよそ何もない分、低収入でもある意味それはそれで回せます。しかし物価の特に高いNYC、収入が大きくても流れ出る分もこれまた大きいのが当たり前、その収支の流れがストップするのは大変な支障をきたす事になりがちです。
しかし経営者側からすれば、給料は高いがこの先は老いぼれるばかりの中年オヤジ達(あるいはおばさん)、そういう連中一人分の給料で超一流大卒が数人雇えるとなれば、リストラしたくもなります。
因みにこのような事を目の当たりにすると、ある意味少しトラウマになりました。会社で大変なプロジェクトを頼まれる時に、まさか終わった瞬間ポイ捨て?という考えがどうしても過ってしまいます。しかし単純にキャリアアップのいいチャンスである場合が実際は多いのです。なので基本懸命にこなすわけですが、どうしてもそのまさかを考えてしまいます。そしてやはりそういったプロジェクト終了で解雇、という話はこの業界ではザラにあるのが恐ろしい現実です。
この風景のどこかでまさに今解雇を宣言されている親父がいたのかもしれない(Jun撮影)

おじさんごめんなさい
ある時これまた大変なプロジェクトを任されていた時に、ごっそり人員をチームJunに配属されましたが、その後更に人を雇う事になりました。何人も面接をしたわけですが、その時とても印象に残った人がいました。レジメでは分かりませんでしたが、パット見ていかにも50過ぎの親父。
話をしていて悪くもないけどべーつに、というのが正直な判断でした。Junとしてはかつてのウォーレンのこともあるし、ご老体は雇わない、というような事は基本考えずとにかく仕事ができるかどうかというところにフォーカスしていました。
この方は取り合えず雇うはあり得ない、といい加減思っていましたし、失礼のないように一応最低30分ぐらいは適当に話をしてもうそろそろおしまいにしようか、というところでした。
雇う側としては面接において基本最後に何か質問は?と志願者に聞くのがおよそありがちですがその中でそのおやじが言い始めました。
「Junさん、先ほど話したように今私は失業中、この仕事はどうしても必要なんです。私にはこの仕事を一生懸命やりこなしあなたのチームの為になる事を保証します。どうかお願いですからこの仕事を私に下さい。」というような事を半分泣きそうな顔つきで嘆願してきました。あの時もしJunが変態だったとして「よし、じゃあここで裸踊りでもしてみせよ」とでも命令してたら彼は完璧にそれをやっただろう、と思えるほど悲痛な表情で頼み込まれました。
違法なので話題にはしませんでしたが、多分家族持ち、子供もいたであろう、そしていい年こいた髪がちょっと薄く背もJunより低い少し小太りおやじ、反泣き面で土下座ではないですがそんなのり。「ああ、あなたのその熱意は分かりました」ぐらいにしか返事をしようがありませんでした。
申し訳なく思いながらも人事には早速彼は没、と連絡しなければなりませんでした。今となっては彼の名前もその後どうなったかも当然全く知るところではありません。しかし明日は我が身になりかねない、という自分への言い聞かせとして深く印象に残る面接でした。せいぜい心のなかで「おじさんごめんなさい(裸踊りしなくてよかったね!)」と思うしかありませんでした。
中年オヤジはどこへ?
前述のウォーレンでもあったように、ある程度の歳を過ぎると仕事探し、特に社員になるのは現実大変に厳しいわけです。”The best time to look for a job is when you have a job.” 仕事探しをするのに一番いいのは仕事がある時だ、とよく言われます。矛盾しているような言い回しですが、現実まさにそうです。一度リストラに合ってしまった場合では遅過ぎます。仕事がない人には当然給料や役職などの面で思いきり足元を見られます。
また、キャリアを積んだ人達の場合は、当然給与レベルも高くそれに見合った仕事をこれからも将来的に出来なければ採用されるわけがありません。しかし肝心な点はその「これからも将来的に出来る」というところでしょう。現在無職の中年オヤジにはそういった点では期待値が暴落しています。
つまり様々な悪条件だらけなのが中年再就職の現実です。この辺りはおよそ日米差がないとも言えますよね。また業界を超えても当て嵌まる事です。挙句の果てには、結局プロジェクトごとの契約社員に思いきり給料を下げて、しかも健康保険なども皆無という、実に惨めな事になるのはよくある現実です。
派遣会社による健康保険というのもありますが、基本最低の最低レベルです。この国では健康保険が働く会社により大きく違い、社員の払う保険料ゼロの会社もあれば、意外とメガバンクが随分社員に払わせていたりとかもあります。
転職が日本よりは遥かに当たり前のアメリカですが、だからと言って中年オヤジの仕事探しが簡単かといえば全くそういう訳ではありません。そしてまともな国民健康保険が無いアメリカは、医療費がべらぼうに高く、その会社ベースの健康保険がなくなった暁には日本より遥かに酷い状況になり易いのです。
因みにアメリカで個人破産に追い込まれる理由の約6割を占めるのが医療費によるものです。心臓発作で救急車にでも無保険で(拒否されずに)乗った場合は、それこそ円で一千万とか十分あり得ます。例えば会社を首になる、その後就職難、そして健康保険もろくでもないオバマケアだったり、そんな時に骨折するなり病気になるなりで巨額の請求で一気に破産。
余談ですが、民主党がよく主張する「違法移民への無料健康保険という政策」がこういった現実を知るといかにまともなアメリカ人には評判が悪いかが理解できると思います。
ところでふと周りを見渡し、また過去渡り歩いた職場をよく考えると、いい年こいたおやじをあまり見かけません。いるにはいますがどちらかといえば若い人達の方が絶対多い。ウォール街全体がそうではなくとも、少なくともJunのいる現場ではそんな感じです。そう冷静に見渡すと再び明日は我が身、と震え上がる思いがします。
運という確率統計
今まで何十人という数の優秀な、かつ人間的にも随分まともかそれ以上の人の解雇劇を見てきました。逆にろくでもないごますり悪党がのうのうと生き残り続けているのも目の当たりにしてきました。そうすると何十年というキャリアにおいては、リストラの犠牲になるかどうかは単純に統計学上の数字、という他にない、と考えるようになりました。
運も実力のうちとはよく言ったものです。しかしそれはおよそ誰にでも平等に降りかかる幸運悪運、それにどう対応できるかという底力なのでしょう。いいチャンス(幸運)が訪れたらそれに乗り思いきりやる。何らかの悪運が訪れた時には先ずは打開策を実行。これってそういえばトレーディングにおける肝心なルールと全く同じです。トレンドに乗った時は思いきり儲けさせてもらいその逆の時はとにかくロスを最小限にする事に集中です。
しかし仕事というのはトレーディングと違い、毎日ポジションを変えられるものではなく、また出入りを繰り返すもあまりできるものではありません。ただどういう対応を冷静にするべきか、という点では実にその相似点が面白いものだと考えています。
有効な防衛策と言えば、もし今首になったらどのようにしてどこに売り込むか、というのを常に考えておく事です。それは自分の置かれた職場や景気の良し悪し関係なく、常にするべき事なのです。そうする事によって、先ずメガバンクであろうが日頃は結局狭い世界での事情に囚われてしまい、突然都合よくポイされた際の自活力がありません。やはり今やっている仕事はともかく、自分には何ができるか、どういうサバイバルスキルがあるか、等こういった最低メンタルトレーニングをしていないと、いざという時にもうどうしようもありません。
若い方から色々と相談を受けますが、そういう世代の人にも常に自分のスキルが何かを明文化し、会社だけに頼らないよう心がけるべきだとアドバイスしています。
と人にアドバイスはいいのですが、未だに「もしも」を考えながらスキルアップを心掛けるJunであります。取り合えずは裸踊りをする必要はないと信じていますが・・・
(登場人物の名前は一応本人の名誉の為、仮名である場合があります)
Jun