徒然ウォール街番外編:夏のバカンス

番外編 #1

独立記念日七月四日を前に、ナズダックやS&Pは最高値を更新しました。ウォール街では七月と八月の二か月間は休暇の季節で九月の新学期季節まではいつもより人がかなり少なくなります。

今回は徒然ウォール街番外編という事で、休暇の話を中心に綴りたいと思います。しかし今回そのバカンス行先で目撃した現地の模様はそこでもアメリカ資本、ウォール街の影響を垣間見る気がしました。

ニューヨーカー夏のバカンス

ニューヨークは飛行機を使う場合、アメリカ国内では最も発達した便利な所と言えるでしょう。

マンハッタンから車で一時間かからない場所に三つも空港があり、お陰で国内外バカンスでの行き先はありとあらゆる選択肢があります。因みに夏のバカンス季節の間、NYCは観光客でごった返します。しかしNYCに夏の間も延々と街に残っているニューヨーカー達も当然います。

先ず若い世代は何かと市内で忙しくする事が多く、休暇その他で市外に出るどころではない場合が十分あります。極端な話、新卒で仕事初めは早ければ6月です。そのような人達がいきなり夏休みなどありえません。ただそういった人達は今が将来への投資であり、先ずは頑張り後は悠々とするという目標がそれなりにあると言う感じ。こういう人達は言ってみれば積極的にそういう選択をし、市内に残り仕事をしていると言えるでしょう。

そして選択の余地もなく市内にとどまるしかいない連中がごっそりいます。同じニューヨーク市内とはいえマンハッタンの外に目をやれば、どこへも行くとこのない家族連れがごっそり集まり公園でバーベキューをする姿が繰り広げられています。行くとこのない、というか現実はそのような余裕がないという事です。最低賃金レベルでの仕事で毎日どれだけ仕事をしても全然余裕のないぎりぎりの生活。週末ぐらいは一瞬の楽しいひと時を、という状況が想像されます。

因みにNYCの一家の収入中央値は約8万ドル、円で千二百万円程になります。日本人感覚では大した額でしょうが、物価があまりにも高いNYC、これでは毎月確実に赤字となります。中央値の収入でこれ、そうなるとNYCでは数百万人という膨大な数の人達が生活保護や家族などの仕送りでもないと全くやっていけません。そのような生活レベルでは、当然夏のバカンスシーズンにNYCの外へ出るなどあり得ないのです。

そのような状況を知るといや、収入の点ではイマイチでも家族とほほえましくつかの間の幸せを公園でバーベキューでもして味わっているんだからいいじゃないか、というようなナレーションが聞こえてきそうです。しかし実に残念な現実が、市内の公園でバーベキューをする人達の実に低いモラル。どうしてそう言えるかと言えば、バーベキュー禁止の看板があってもお構いなし。そして夕方には辺り一帯がゴミだらけになっている点です。全員ではないにしてもかなり多くの人達がその辺にゴミを捨てているのです。

夏の週末、ブルックリンの公園はこのようにとんでもない人ゴミがゴミをポイ捨て (ローカル新聞ブルックリンペーパー撮)

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かつて香港に出張した時、日曜日に滞在中のホテルの周りに突然大量の人が押し寄せ、地べたに座りこみ何かしら料理をしていたり、はたまた髪の毛を切っている姿も多くみられました。翌日仕事先の人にあれは何なのかと聞いたところ、平日は住み込みお手伝いとして働いている人達が日曜日だけは休みが取れ(というか家から追い出されている)それであのような光景になる、と説明されました。

NYCでも平日は低賃金労働で忙しくし、日曜日だけは公園でのひと時を楽しむ様ですが、基本同じような事だと感じました。バンバン稼いで週末は郊外の別荘、あるいはバカンスで海外、という連中も五万といる中、多くの市民は市内の公園でバーベキュー、というのがNYCの夏であります。ここでもやはりすっかり経済分断されているNYCの現実を感じないではいられません。

それはさておき今年Jun家族、夏の休暇はメキシコの一大観光地、カンクンと言う事にしました。

観光地カンクンの歴史とホテル街

メキシコはユカタン半島の東端に位置するカンクン、半世紀ほど前までは特別何もないところでした。本来住民はなんとマヤ文明人の末裔だとか。カンクンは基本人口も少ない森林生い茂る静かな場所でした。

1960年代にメキシコ政府が率先してカンクンを観光地として開発する事を決定、そして1970年代にホテルなどが営業を始めました。当時のメキシコではアカプルコが繁盛していましたが、やがてカンクンの方がアカプルコの数倍も観光客を集めるほどになりました。今やアメリカ人が行くとしたら、アカプルコではなくカンクンと言う感じ。

今トランプ政権とひょっとして険悪な状況で何か面倒があるかと思いきや、入国審査は実に簡単なものでさっさと終わりました。その後すぐにホテルへ行くシャトルバスに搭乗。ホテルゾーンという地域に向かいました。ホテルに着く直前にセキュリティーチェックがありました。当然ですが関係者以外は入れない状況でした。

もうそのまんま、ホテルゾーンという地域は正にそれが並ぶ海岸線(iPhoneスクショ)

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海外線のつまり一番景色のいいところですが、ずらーっとホテルで埋め尽くされていました。半世紀前に開発されたとはいえ、目につくホテルはどれもモダンなデザインでせいぜい古くても築10年ぐらいか、と思われるようなものばかりでした。ひょっとしたらポンコツ化した建物を一斉に改築したのかもしれません。それにしてもホテルゾーンのホテルはどれもこれもピカピカの物でした。

そして直ぐ様気づいた点が、見覚えのあるホテルチェーンの名前でした。ヒルトン、ハイアット、マリオット、などなど。全部ではないですが多くのアメリカ資本の豪華ホテルが目立ちました。調べてみるとやはりアメリカ資本のホテルは相当数になるとの事でした。

滞在先のホテル。とにかく広々としていて様々なサービスを提供する従業員がそこら中にいた(Jun撮影)

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今回滞在したホテルはとても広々としていました。また、どこに行ってもホテルの従業員がいてうっとおしくない程度に何かできる事はないか、という様な事を聞いてきました。施設の場所を教えてもらう以外に、ドリンクを頼んだりツアーの申し込みにしろ兎に角何でもありでした。

今まで何度かカリブの島々には行ってきたのですが、大体どこも人が少なく、また従業員もそこそこか、どちらかといえば見当たらない、という場合が殆どでした。遠くて人のあまりいない南の島、というところばかり。勿論そういう所を選んできたというのもあるでしょうが。

しかし今回は贅沢に場所を広々ととり従業員が瞬時に何にでも対応できる体制という今までのカリブホテル経験とは随分違うものでした。まあこれは予期せなかったいい驚きと言う事でしたが。

そしてカリブの島々同様、ここでもアメリカドルと英語で全てこなす事ができました。勿論現地の言葉であるスパニッシュを喋れれば、その方が現地の人には有難いのかもしれませんが、英語しかできなくても問題になる事は皆無でした。

カンクンナイトクラブダンサー

夜にはホテルの近くにあるナイトクラブへ向かいました。様々な曲が流れていましたが、ある時ふと気付きました。何故かマイケルジャクソンやクイーンなど80年代のヒット曲が結構かけられており、今時のEDMも当然ありましたが80年代が主体でした。

そして30分に一回ほどの頻度でダンサーが登場してはショーが繰り広げられていました。そういうのがあるとは聞いていましたが実際そのショーを見てその質の高さに驚きました。皆さんおよそ20代でしょうか、NYCのブロードウェイで踊っていても十分いけそうな思いきり鍛え上げられた超健康的な体でそれはもう踊りまくり。皆美男美女で兎に角華やかでした。ふとこのダンサー達も当然このカンクンに住んでいて毎晩こういう仕事の準備の為にチームで揃って踊る練習とかも相当こなしているのだろうな、と思いました。

クラブのダンサーたちはもうピチパチの弾けんばかり、エネルギー丸出しでした(Jun撮影)

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そしてもう一つ思ったのがこの若く華やかなダンサー達、同じ体が資本といっても特にこの方達は若い時だけしかおよそ使ってもらえられないという現実もある筈です。実際見た限りでは皆さん20代にしか見えませんでした。そう考えると今から10年もしたら全く違うダンサー達がまた舞台を飾っているという事なのでしょう。今現役の人達、その頃は別の仕事をしなければ生活が成り立たないでしょう。やはりホテル従業員にでもなるという事なのでしょうか?

因みにNYCのブロードウェイスターでも、舞台が終わった後は一般人にまみれて地下鉄で帰るのが当たり前らしいです。ハリウッドスターのように豪華な車で送り迎えとかでは全然ない。お陰でストーカー被害にあってしまう事もあるとか。そのブロードウェイ舞台に出ても分からないぐらいの質を誇るこの方達もこれまたそのブロードウェイスター同様、閉店後はのこのこ自分一人で帰っているのだろうか、などと更に余計なことを思ってしまいました。

明日の事もあるので夜の12時頃に店を出る事にしました。外に出ると随分と人が沢山練り歩いていました。そして驚いたのがそのクラブの出入り口付近にマシンガンを持った軍人が数人いた事です。どこの世界でもこういった場所では犯罪の匂いがするのでしょうが、しかしNYCでもマシンガンを持った人がクラブの出入り口にいるのは見た事がありません。

そして同様の光景が離れ島のツアーに参加した時にも見られました。観光客で賑わすそれはもう綺麗な島へ行ったのですが、そこにも厳つい警備員がいました。そういえばホテルへの出入りは厳重にチェックしていましたが、マシンガンを持って観光産業をギャングから守っているのか、と改めて感じました。

因みにカンクンより衰えてしまったアカプルコは、治安問題の要素が大きかったとか。そのレッスンもありカンクンは厳重な警備をしているのかと。

離島で見かけた軍の警備隊、商店街での模様(Jun撮影)

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カンクンを支える現地の人

今が花の綺麗なダンサー達を前に思う事ありのナイトクラブでしたが、翌日早朝どこかへ出かけた時ふと車の外を見ると、何百人という人達が工事現場で集まっていました。見るからに新たなホテルを作っているというところでした。ホテルを建設する人達、完成したらそこで働く人達、そして夜になるとクラブで働くダンサー、その外にはマシンガンで観光客を守る人。何から何までが観光ビジネスを取り巻きカンクンという社会が出来上がっている事を強く感じました。

仕事に向かって徒歩通勤しているかと思われる現地の人たち(Jun撮影)

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そして改めて思いだしたのが我々はカンクンの人達からすればアメリカから来た外国人。その外国人の分際で外国語である英語しか喋れない。そして持っているお金は現地のメキシカンペソならぬアメリカドルのみ。しかしそんな外国人(Jun一行)を思いきりしかも破格値で歓迎してもてなしてくれるこのありえないサービス産業が提供する環境。

そのような事を考え始めて更に思い出したのがホテルゾーンに乱立する小綺麗かつモダンなホテル群。全てではないにしろアメリカ資本系がかなり目立ちました。開発の最初はメキシコ政府資本だったのに、今やどれほどアメリカを筆頭に海外資本が入り込み経済支配をしているのか、と気になりました。

単純にそのホテルを建設するのにどれほどの資金が必要か、とふと考えました。どう考えても日本円で言えば100億円とかはかかる事が予想されました。結局そういった資金調達にはウォール街がしっかり顔を出している訳です。

おさらいして見ると、先ずカンクンの最も景色のいい海岸線はアメリカ筆頭に海外資本進出が著しい現状。そもそもホテル建設の資金調達からウォール街が参入。ホテル完成後には海外、特にアメリカから客がやってくる。その外国人客は英語しか喋らないしドルしか持っていない。ホテル経営者はウォール街(債権など)への返済に勤しみコストカットと利益向上を強いられ、そしてそれは従業員への賃金低下圧力となる。そしてホテルゾーンからは離れた内陸に住む現地の人達はホテル建設、それができたら従業員、はたまた華やかなダンサー。しかし共通して言えるのは現地の人達は観光客を支える事のみで賃金を得て生活基盤となっていると。ホテルのオーナーはアメリカその他の外国勢、遊びに来る客も外国人、現地の人はそれを支える労働層のみ。歴史的に使われてきた植民地という表現は多少おかしいかもしれませんが、そう言った表現を思わせる状況を強く感じました。

それをあたかも証明するように7月4日、アメリカ独立記念日に特別イベントがホテルで開催されました。アメリカンフラッグ及び赤青白の布テープでホテルが彩られ夜には、またあのクラブから出てきたかのようなダンサー達が次から次へとショーを展開。曲は勿論アメリカンポップが主流。メキシコ本土でアメリカ独立記念日のお祝いを盛大にやっていたのです。

アメリカ独立記念日を祝うためホテルがアメリカン仕様に装飾(Jun撮影)

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ところで日本

カリブの島々も同様な外国資本支配は当然あり、ひょっとしたらカンクンどころではないかもしれません。ただ今回はあまりに多くの現地の人々が工事現場やホテルなどのサービス従業員として一生懸命働いているのを目の当たりにして、豪華なホテルでのサービスを堪能しながら逆にその人達の境遇をつい考えてしまいました。

そして植民地と言えるかはともかく、現実は経済奴隷と化している現地の人々。観光以外なにもなくそうするしかない現実は厳しい。付加価値の大きいものを作り巨額の利益を出せるビジネスはそこにはなく、資本支配層が儲けを全てかっさらい現地の人は最低限の賃金のみ。しかしこれは観光ビジネスの現実です。

と言う様な事を考えている内に、ふと我が祖国である日本の事を思い出しました。この三十年間何をやっていたのか、、、という日本経済ではありますが、しかし未だに日本の技術なしでは成り立たない最先端産業が山ほどあります。

数限りない例がありますが、アメリカ人によく話すネタの一つが、味の素が生産するABFという特殊な絶縁フィルムです。これなくしては最新のAI半導体も作れません。面白いのが味の素という会社がどうしてそのようなものを作るに至ったか、そしてここが日本らしい誰にも真似のできない高純度の物を作る技術。そこには多大な付加価値があり、低賃金で稼ぐ観光業とは全く違う経済構造です。

しかし今時の日本政府は日本に来る観光客を更に増やそうとする絶対止めて欲しい政策を進めています。カンクンで働く人達同様、観光を支えるビジネスは基本低賃金労働者のみを必要とし、下手すると外国資本による日本人経済奴隷化となります。今現在既に日本人が日本国内旅行するのにも苦労する状況、これはカンクンに住む現地の人々が仕事以外何もしていなさそうな状況と同じです。

ここで考えてみてください。観光産業発展を目指して開発されたカンクンの現在状況が日本にも当てはまったらどういう事になるのか?カンクンのホテルでアメリカ独立記念日を祝うイベントが盛大に行われていた事を書きました。それは日本政府が目指す観光大国にでもなった暁の姿と言えるでしょう。例えば中国の建国記念日と言われる10月1日国慶節を盛大に日本人のホテルスタッフなどが全員中国語でお祝いする事となります。これは技術大国日本の目指すべき姿とはとても思えません。

再びNYCへ

今回のバカンスでは今まで考えた事もない経済支配体制の事に思い耽ってしまいました。勿論色々な事ができて大変楽しい思いも沢山ありました。

カンクンにはとにかく綺麗なところがいっぱいありました(Jun撮影)

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4泊のバカンスもあっという間に終わり、翌週月曜日には再び出勤。その通勤中、いつも通りがかる場所でしたが、これまた毎度のごとく教会で配られる無料の食事を目当てにした人達(多くがホームレスと思われる風貌)がずらーっと並んでいました。因みにこれは先日乱射事件があったオフィスの道路向かいです。そしてちょっと離れた所には今年完成予定のNYCで最も豪華なオフィスタワーとなること間違いなしであるJPモルガンの本拠地が建設中。400メートルを超えるそのウォール街勝者を象徴する摩天楼、しかしその直ぐ下には食事をもらう為に並んでいる人達がごっそりという対照的事象。大まかにはカンクンでも見た姿と同じです。

教会で配られる無料の食事をもらいに並んでいる人々。右上には建設中のJPモルガン本拠地が見えます(Jun撮影)

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カンクンではホテルという同じ空間に外国人である我々とそこで働く現地の人達が共存していましたが、しかし明らかに所属する経済層が全く違っていたのを感じないではいられませんでした。NYCに帰ってきてまた日常へと戻ったのですが、そういえばNYCという同じ空間にいながら全く違う世界にそれぞれ所属しているというその不思議さを改めて思わされました。

また機会を見つけてはこういったNYCを一歩二歩出た世界の話も番外編として綴っていきたいと思います。

Jun